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アンカリング効果は価格表に効くのか、
心理学の実験を検証する

2026.09.29

「最初に高い金額を見せておくと、その後の金額が安く感じる」「3段階の料金表には、選ばれないための"おとり"を混ぜるとよい」。料金ページの定石として、こうした話をよく見かけます。これは、どこまで実験で確かめられた話なのでしょうか。

出発点は、ルーレットを使った実験

アンカリング効果の出発点は、1974年、心理学者のトベルスキーとカーネマンが学術誌『Science』に発表した論文です。0〜100の数字が書かれたルーレットを回し(実際は10か65にしか止まらないよう細工されていました)、出た数字を見せたうえで、「国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合」を推測してもらいました。ルーレットの数字は無関係だと分かっているはずなのに、10を見たグループの回答の中央値は25%、65を見たグループは45%だったという結果が出ました。無作為な数字が、推測を大きく動かしたのです。

料金表でよく使われる「おとりの選択肢」の話には、別の出発点があります。1982年、ヒューバー氏らが学術誌に発表した研究で、「徒歩25分の五つ星レストラン」と「徒歩5分の三つ星レストラン」という、優劣のつけにくい2択に、「徒歩35分の四つ星レストラン」というどちらから見ても中途半端な第3の選択肢を加えると、五つ星レストランを選ぶ人が増えることを示しました。

実世界でも効くが、専門家は自分の偏りを認めない

アンカリングは、実験室の中だけの話ではありません。1987年、ノースクラフト氏とニール氏は、不動産の売り出し価格を人為的に変えて、一般の人と不動産の専門業者の両方に物件の査定額を出してもらいました。結果、専門業者も、一般の人と同じくらい売り出し価格に引っ張られていました。興味深いのは、査定の根拠を尋ねたとき、売り出し価格を挙げた専門業者は19%にとどまり、一般の人(37%)より少なかった点です。専門家ほど、自分がアンカーの影響を受けたとは認めにくいようです。

数字に引っ張られていることに、本人が一番気づきにくい。

ただし、「本物のお金」を使う実験では、効果が弱まる

ここで注意が必要です。2015年、アレヴィ氏らが発表した研究は、アンカリングを架空の質問ではなく、実際の支払いが発生する場面で検証しました。結果は、経験のある消費者には、アンカーの影響がほとんど見られませんでした。「仮の質問」で確認された効果が、「本物のお金」を使う場面では、同じ大きさで再現されなかったのです。

「おとりの選択肢」についても、同様の弱まりが報告されています。2014年、ヤング氏とリン氏が91通りの組み合わせで追試したところ、数字だけの抽象的な条件では効果が再現された一方、実際の商品のように写真や具体的な説明をつけた条件では、効果がほとんど消えました。料金表は、まさに具体的な説明つきの実例にあたります。

2025年の再検証:効果の大きさ自体が、誇張されていた可能性

近年の学術誌『Economic Inquiry』に掲載された2025年の論文では、これまでのアンカリング研究の多くが少人数の実験に基づいており、効果の大きさが誇張されていた可能性を指摘しています。アンカリングという現象自体は否定されていませんが、「効果は大きく確実」という従来の紹介のされ方には、見直しが必要だということです。

実務での考え方

このサイトの料金表(WEB制作のLight・Standard・Large)は、3段階になっています。ただし、選ばれないための"おとり"を意図的に混ぜてはいません。3つとも、実際に選ばれる前提の区分です。上記の研究を踏まえると、抽象的な数字の比較では効きやすい手法も、写真やサービス内容が具体的に見える場面では効果が弱まったり消えたりします。小手先の見せ方より、区分ごとの内容を具体的に書くことのほうが、いまのところ再現性のある選び方だと考えています。

結論:効果はあるが、場面を選ぶ

アンカリングも、おとりの選択肢も、実験室では繰り返し確認されてきた現象です。ただし、本物のお金が動く場面や、内容が具体的に分かる場面では、効果が小さくなったり消えたりすることが分かっています。料金表に取り入れるなら、「効くはず」と過信せず、内容の説明を丁寧にすることとあわせて考えるのが実務的です。

参考文献