書体が信頼感を左右するのか、
4万5千人を対象にした実験を読む
「明朝体・セリフ体は信頼感を与える」「ゴシック体・サンセリフ体は親しみやすい」。フォント選びの記事では、こうした説明がよく見られます。中には、具体的な数字を挙げて効果を主張するものもありますが、その多くは元の調査が示されていません。数字よりも先に、実際に行われた実験を見てみます。
4万5千人が参加した、ニューヨーク・タイムズの実験
2012年、映画監督のエロール・モリス氏が、ニューヨーク・タイムズのサイト上で、ある実験を行いました。表向きは「あなたは楽観的か、悲観的か」という診断クイズでしたが、実際の狙いは別にあります。同じ文章を、Baskerville、Georgia、Helvetica、Comic Sans など6種類のフォントのいずれかでランダムに表示し、その文章にどれだけ同意するかを尋ねたのです。
約4万5千人が回答した結果、Baskerville(250年前に作られたセリフ体)で表示された文章は、ほかのフォントより統計的に有意に信じられやすいことが分かりました(p値0.0083)。Comic Sansで表示された文章は、最も信じられにくいという結果でした。
ただし、「セリフ体だから信頼できる」わけではない
ここで注意したいのは、この実験で高く評価されたのはBaskervilleという特定の書体であって、「セリフ体全般」ではないという点です。同じセリフ体でも、GeorgiaやComputer Modernは、Baskervilleほどの差が出ませんでした。「セリフ体は信頼感を高める」という単純化は、この実験の結果を正確に言い表していません。
またEC サイトを対象にした別の研究では、セリフ体は紙面での読みやすさに強みがある一方、画面上ではサンセリフ体の方が認知の負担が少ない、という傾向も報告されています。信頼感の話と、読みやすさの話は、分けて考える必要があります。
フォントが変えるのは、内容の正しさではなく、読み手の「感じ方」。
実務でできること
「このフォントを使えば信頼される」という近道はなさそうですが、フォントを変えるだけで、読み手の印象が変わりうること自体は、大規模な実験で確認されています。だからこそ、見た目の好みだけで選ぶのではなく、「この文章を、誰に、どんな態度で読んでほしいか」を先に決めてから、書体を絞り込むという順番が大切だと考えています。
結論:効果はある、ただし書体ごとに違う
フォントが読み手の印象に影響すること自体は、実験で裏づけられています。ただし、「セリフ体だから」「ゴシック体だから」と一括りにできるほど単純な話ではなく、書体ごとの個性まで見て選ぶ必要があります。