MARKETING NOTES

「失う恐怖」は本当に2倍強いのか、
損失回避の理論を検証する

2026.09.29

「今なら送料無料」より、「今を逃すと送料がかかります」のほうが効く。損失回避を根拠にした、こうした言い回しの使い分けをよく見かけます。「損は得より強く感じる」という話は、どこまで確かめられているのでしょうか。

行動経済学で、もっとも引用されてきた理論

損失回避の土台は、1979年、カーネマンとトベルスキーが学術誌『Econometrica』に発表した「プロスペクト理論」です。この理論は、人が利益と損失を同じ大きさでは評価せず、同じ金額でも、失うことのつらさは、得ることの喜びより大きく感じられると説明しました。行動経済学の中でも、この半世紀でもっとも引用された論文のひとつとされています。

マーケティングの現場では、この理論をもとに、「損失を避ける言い回し」が「利益を得る言い回し」より効果的だ、としばしば紹介されます。俗に「損失は利益の2倍つらい」という、具体的な倍率つきで語られることもあります。

2018年、「2倍」という数字への異議

ところが2018年、学術誌『Journal of Consumer Psychology』に、行動経済学者のギャル氏とラッカー氏が発表した論文は、この「2倍」という数字を含め、損失回避が教科書で語られるほど普遍的な法則ではないと指摘しました。損失が利益より強く感じられるかどうかは、状況によって大きく変わり、一律の倍率で語れるものではないという主張です。

この論文は、学術界に議論を呼びました。同じ学術誌に、サイモンソン氏らが反論を寄せ、「損失回避という現象自体は実在する」と再反論しています。2026年時点でのおおよその見立ては、損失回避という傾向自体はあるが、"2倍"という一律の数字は、言うほど確立されていないというものです。

損は得よりつらい。ただし、いつも2倍つらいわけではない。

訴求文への置き換え

「損失フレーミングのほうが必ず効く」と決めてかかるのは、いまの研究の状況からすると言い過ぎです。損失回避が強く働く場面と、そうでない場面があることを前提に、言い回しを変えて試すこと自体は理にかなっていますが、どちらか一方を"正解"と決めつけない姿勢のほうが、実態に近いと考えています。

結論:傾向はあるが、数字は独り歩きしている

損失を避けたいという心理そのものは、行動経済学の中でも比較的よく支持されている考え方です。ただし、「損は得の2倍つらい」という具体的な数字は、近年の研究で見直しが進んでいます。訴求文に使う際は、断定せず、実際の反応を確かめながら調整するのが手堅い進め方です。

参考文献