高いワインは本当に美味しいのか、
価格と体験の関係を検証する
「高いワインのほうが美味しく感じる」。単なる思い込みだと片づけられがちなこの現象は、脳の働きとして観察された研究があります。同時に、値段を隠すと結果が変わることも分かっています。
値段を教えただけで、脳の反応まで変わった
2008年、プラスマン氏らのチームが学術誌『PNAS』に発表した研究では、被験者に、実際には同じワインを、異なる価格だと伝えたうえで試飲してもらい、脳の活動をfMRIで計測しました。結果、値段が高いと伝えられたワインを飲んだとき、快さを感じる脳の部位(内側眼窩前頭皮質)の活動が、実際に強くなっていました。これは、「美味しいと言い張っているだけ」ではなく、脳の反応そのものが、価格情報によって変化していたことを示しています。
ただし、値段を隠すと、高いワインは評価されない
一方で、これとは別の角度からの研究もあります。ブラインド(値段を知らせない)状態での試飲を大規模に集めた分析では、一般の飲み手にとって、実際の価格と、感じる満足度のあいだに、はっきりした関係は見られませんでした。むしろ、値段を知らない一般の飲み手は、高いワインをわずかに低く評価する傾向すら報告されています。ワインに詳しい人に限っては、価格と評価がやや連動する傾向が見られましたが、それでも、ブラインドで同じワインを正しく言い当てられる精度は、決して高くありません。
価格は、味を変える。ただし、値段を隠せば、その差は消える。
2つの研究をあわせると、見えてくること
プラスマン氏らの研究と、ブラインド試飲の研究をあわせて読むと、次のように整理できます。価格が体験を変えるのは、価格が「見えている」ときに限られる現象だということです。ワインの成分や品質そのものが、価格によって変わっているわけではありません。変わっているのは、価格情報を受け取った人の「期待」であり、その期待が、実際の体験の感じ方に影響しているのです。
実務での考え方
料金を分かりやすく見せることは、単なる情報提供ではなく、サービスへの期待や満足度そのものに影響する可能性がある、ということです。だからといって、実態のない高額表示をする必要はありません。むしろ、価格に見合う体験を用意したうえで、その価格を隠さず伝えることが、期待と満足の両方を素直に働かせる、誠実なやり方だと考えています。
結論:効果は本物、ただし価格が見えているときだけ
価格が体験の感じ方を変えることは、脳の反応としても確認されています。ただし、それは価格を知っているときに限られ、実際の品質そのものを変えるわけではありません。見せ方の工夫と、中身の品質は、分けて考える必要があります。
参考文献
- Plassmann, H., O'Doherty, J., Shiv, B., & Rangel, A. (2008) "Marketing actions can modulate neural representations of experienced pleasantness", PNAS
- Goldstein, R. et al. (2008) "Do More Expensive Wines Taste Better? Evidence from a Large Sample of Blind Tastings", Journal of Wine Economics(American Association of Wine Economists)