「残りわずか」は本当に効くのか、
希少性の実験と規制の現在地
「残りわずか」「在庫僅少」。ECサイトや予約サイトで、頻繁に見かける表示です。希少性が価値を感じさせるという話は、どこから来ているのでしょうか。
同じクッキーなのに、数が少ないほうが高く評価された
1975年、ウォーチェル氏らが学術誌に発表した実験では、まったく同じクッキーを、2枚入りの瓶と10枚入りの瓶に分けて被験者に見せ、評価してもらいました。結果、2枚しか入っていない瓶のクッキーのほうが、価値が高く評価されました。
さらに、この実験には続きがあります。10枚入りだった瓶から8枚を減らし、逆に2枚入りだった瓶に8枚を足す、という操作を加えたところ、急に少なくなった瓶のクッキーが、最も高く評価されました。同じ2枚でも、「最初から2枚」より「10枚から減った2枚」のほうが、価値が高く感じられたのです。
いまは、規制の対象にもなっている
ここで押さえておきたいのは、この実験が扱ったのは本物の希少性だという点です。クッキーの数は、実際に操作されていました。
一方、いま問題になっているのは、実際には数量や期限に制限がないのに、あるように見せる表示です。2022年、アメリカの連邦取引委員会(FTC)は、「ダークパターン」に関する報告書の中で、根拠のないカウントダウンタイマーや、偽の残数表示を、消費者に誤った信念を抱かせる設計として明確に問題視しました。2024年には、解約のしやすさに関する新しい規則(クリック・トゥ・キャンセル)も施行されており、こうした表示への監視は強まる方向にあります。
希少性は、本物であれば効く。偽物は、いま取り締まりの対象になっている。
実務での考え方
希少性の効果自体は、実験で確かめられています。ただし、効かせようとして実態のない数字を作ることは、効果があるかどうか以前に、規制のリスクを伴う話になってきています。在庫数や期限を表示するなら、実際の数字をそのまま出すことが、効果と安全性の両方において、いまは最も手堅い選択だと考えています。
結論:効果は本物、ただし本物の希少性に限る
希少性が価値の感じ方を変えること自体は、半世紀近く前の実験からも確認されています。ただし、いまその効果を狙うなら、実態を伴わない演出は避けるべき時期に来ています。