「みんな使っている」は本当に効くのか、
社会的証明の実験を読む
「他のお客様も使っています」「口コミ○件」。この一言を添えるだけで行動が変わる、という話をよく見かけます。この「社会的証明」は、どんな実験で確かめられてきたのでしょうか。
ホテルの案内カードを、書き換えただけの実験
2008年、ゴールドスタイン氏・チャルディーニ氏・グリスケビシウス氏が学術誌に発表した研究は、ホテルの客室にあるタオル再利用の案内カードを使ったものです。従来の「環境のために」という呼びかけを、「このホテルの宿泊客の多くが、タオルを再利用しています」という一文に変えただけで、再利用率が上がるかを調べました。
結果、環境訴求のカードに比べて、再利用率が26%上昇しました。さらに、「この部屋に泊まった人の多くが」と対象を同じ部屋に絞ると、そこからさらに15%上昇しています。呼びかけの内容そのものより、「他の人がどうしているか」を伝えるほうが効果的だったのです。
ただし、平均より"下"の人にしか効かない
この効果には、見落とされがちな裏面があります。同じグループが2007年に発表した、家庭の電力使用量を対象にした研究では、「近所の平均より多く使っている家庭」に平均値を伝えると、使用量が減りました。ところが、「近所の平均より少ない家庭」に同じ情報を伝えると、逆に使用量が増えてしまったのです。
これは「ブーメラン効果」と呼ばれています。「みんなやっている」という情報は、平均より頑張っている人にとって、そこまでやらなくていいのかという許可に変わってしまいます。この研究では、数字の横に、頑張りを認める・たしなめる簡単な顔マーク(smiley/frowny face)を添えるだけで、ブーメランを打ち消せることも示されました。
「みんなやっている」は、平均より下の人の背中を押し、平均より上の人の足を止める。
口コミの見せ方に置き換えると
自社のサービスに置き換えると、「多くのお客様が満足しています」という表現は、すでに満足度の高いお客様には、響きにくい可能性があります。逆に、まだ利用していない人、迷っている人には効果が見込めます。口コミを見せる相手が「これから使うかどうか迷っている人」なのか、「すでに使っている人」なのかで、見せ方を変える価値があります。
結論:誰に見せるかで、効果の向きが変わる
社会的証明は、実験で繰り返し確認されている効果です。ただし、「みんなやっている」という情報は、良い方にも悪い方にも人を動かします。口コミやレビューを見せる場面が、これから選んでもらう場面なのか、すでに選んだ人に満足してもらう場面なのかを区別すると、狙いどおりに働きやすくなります。
参考文献
- Goldstein, N. J., Cialdini, R. B., & Griskevicius, V. (2008) "A Room with a Viewpoint", Journal of Consumer Research
- Schultz, P. W., Nolan, J. M., Cialdini, R. B., Goldstein, N. J., & Griskevicius, V. (2007) "The Constructive, Destructive, and Reconstructive Power of Social Norms", Psychological Science